
- 引継書が書けないのは時間不足より、頭の中の手順を文章化する作業の重さが原因です
- 書くのではなく話して録音し、AIに文字起こし・要約させると下書きが一気に進みます
- 顧客情報やパスワードなど、録音に含めてはいけない情報を先に決めておく必要があります
異動の内示から着任日まで2週間しかなく、引継書はまだ白紙のまま。そんな状態で「とりあえず今日中に一次案だけでも」と言われた経験はないでしょうか。
パソコンに向かって書き始めても、最初の見出しから手が止まります。自分が何をしているかは体で覚えているのに、それを文章にしようとすると、どこから説明すればいいのかがわからなくなるからです。毎週の定例作業、月に一度だけ発生する例外対応、トラブルが起きたときだけ使う裏技めいた手順。頭の中には確かにあるのに、いざ文字にしようとすると輪郭がぼやけます。
引継書が進まないのは、時間が足りないからだけではありません。頭の中にある手順を、文章という別の形式に変換する作業そのものが重いからです。この記事では、その変換作業を「書く」から「話す」に置き換え、録音とAIを使って引継書のたたき台を作る方法をまとめます。
引継書が書けない、本当の理由
引継ぎの相談を受けると、たいてい最初に「時間がない」という答えが返ってきます。実際、異動や退職の内示から実際の引き継ぎ期間までは、長くても数週間しかないことが多く、時間が足りないこと自体は事実です。
ただ、時間があっても引継書がすらすら書けるかというと、そうとも限りません。日々の業務は、体が覚えている手順の集まりです。マウスをどこでクリックするか、誰にいつ確認を取るか、この例外が起きたときはどう対応するか。これらは「暗黙知」と呼ばれる、言葉にされないまま実行されている知識です。暗黙知を文章に変換するには、無意識にやっている手順を一段引いた視点でとらえ直し、他人が読んでわかる順番に並べ直す作業が必要になります。これは、書類を1枚仕上げるよりずっと負荷の高い作業です。
だとすれば、対策は「もっと時間を確保する」ことだけではないはずです。文章に変換する作業そのものの負荷を下げる方法があれば、限られた時間でも引継書は進みます。
書く代わりに話す、という引継ぎの型
暗黙知を言語化する作業は、実は日常的に別の形でこなされています。後輩に「これどうやるんですか」と聞かれたとき、多くの人はスムーズに手順を説明できます。書くときには固まってしまう同じ知識が、話すときにはすらすら出てくるのです。
この差は、話し言葉と書き言葉で要求される作業が違うことから生まれます。話すときは、聞き手の反応を見ながら、思い出した順に説明すればよく、文章としての構成や体裁を同時に考える必要がありません。書くときは、話の順番・見出し・箇条書きの粒度まで、内容を考えるのと同時に整えなければならず、その分だけ手が止まりやすくなります。
そこで、業務の説明をまず話して録音し、その音声をAIに文字起こし・要約させて、引継書のたたき台にする方法が有効になります。話す作業に専念できるぶん、暗黙知が口から出やすくなり、体裁を整える作業はAIに任せられます。
引継書に書くべき6項目
何を話せばいいか決まっていないと、録音しようとしても結局は手が止まります。業務ごとに、次の6項目を順番に話すことを決めておくと、話す内容に迷わなくなります。
| 項目 | 話す内容の例 |
|---|---|
| 担当業務 | 何という業務か(例: 月次請求書の発行) |
| 頻度 | 毎日/毎週〇曜日/月初/不定期、などいつ発生するか |
| 手順 | 使うツール、クリックする順番、確認する相手 |
| 関係者 | 社内の関連部署、社外の担当者、連絡先の探し方 |
| トラブル時の対処 | よくある例外、過去に困った事例、エスカレーション先 |
| 保管場所 | 関連資料・テンプレート・アカウント情報がどこにあるか(パスワード自体は含めない) |
この6項目は、そのままこの記事末尾のテンプレートの見出しになっています。録音する前に一度目を通しておくと、話す内容の抜け漏れが減ります。
録音の型:1業務5分、質問リストに答える形式
担当業務を全部まとめて1回で話そうとすると、途中で話が脱線し、後半になるほど説明が雑になりがちです。業務を1つずつ区切り、1業務あたり5分を目安に録音するほうが、内容が整理された状態を保ちやすくなります。
話す順番は、先ほどの6項目(担当業務・頻度・手順・関係者・トラブル対応・保管場所)に沿って進めるだけで十分です。台本を用意する必要はなく、質問リストに答える感覚で、思い出した順に話していけば大丈夫です。
後任がすでに決まっている場合は、後任に質問してもらいながら録音する方法もあります。自分だけで話すと当然だと思って省略してしまう手順も、後任が「それはどういう意味ですか」と聞いてくれることで言語化されます。インタビュー形式にできる時間が取れるなら、こちらのほうが漏れの少ない引継書になります。
録音したあとに、AIが引継書のたたき台を作る
業務ごとの録音がたまったら、その音声をAIボイスメモアプリに渡します。メモリス(AIボイスメモ)のようなアプリは、録音済みの音声ファイルを読み込ませると、録音が終わったあとにAIが処理し、数分で文字起こしと要約の下書きが完成する仕組みです。録音している最中にその場で文字になるわけではなく、あくまで録音後にまとめて処理される点は押さえておいてください。
できあがった文字起こし・要約は、そのまま引継書として提出できる完成度ではありません。話し言葉特有の言い回しや、固有名詞の誤認識が残っていることがあります。ただし、白紙から書き始めるのと比べれば、直すべき箇所を修正するだけで済むぶん、作業量は大きく減ります。AIの下書きを、次の節のテンプレートに沿って項目ごとに貼り付けていけば、引継書の骨格が完成します。
録音に含めてはいけない情報
話して録音する方法は便利ですが、録音データという形で情報が残ることには注意が必要です。特に次の2種類は、録音に含めないほうが安全です。
- 顧客の個人情報:氏名・連絡先・契約内容などを、事例として詳しく話さない。話す必要がある場合は「A社の請求処理は〇〇の手順」のように、個人が特定できない形にとどめる
- パスワード・アカウント情報:ログイン情報そのものを声に出さない。「パスワードは社内のパスワード管理ツールの〇〇フォルダを確認」のように、情報の在り処だけを話す
録音データは処理が終わると自動的に削除される仕組みのアプリもありますが、削除される前提であっても、機密情報は録音しないに越したことはありません。顧客情報やアカウント情報の引き継ぎは、社内の規定に沿った別の方法(パスワード管理ツールでの共有、担当者間での直接申し送りなど)を使ってください。
コピーして使える引継書テンプレート
業務ごとに、次のテンプレートへAIの下書きを流し込んでいくと、引継書の形が整います。
## 業務名:
### 担当業務
- 何をする業務か:
### 頻度
- いつ発生するか(毎日/毎週〇曜日/月初/不定期など):
### 手順
1.
2.
3.
### 関係者
- 社内の関連部署・担当者:
- 社外の担当者・連絡先:
### トラブル時の対処
- よくある例外・過去の事例:
- エスカレーション先:
### 保管場所
- 関連資料・テンプレートの場所:
- アカウント情報の確認方法(パスワード自体は書かない):
担当業務の数だけこのブロックを繰り返せば、1業務ずつ話して録音した内容が、そのまま引継書の章立てになります。
異動や退職の直前は、引き継ぎ以外の作業にも時間を取られがちです。退職の場合、有給消化や貸与物の返却など、引き継ぎとは別に人事担当者と取り決める項目も出てきます。その記録の残し方は退職面談の記録の残し方|有給消化・引き継ぎの取り決めにまとめているので、あわせて確認してください。後任と口頭で打ち合わせる場になった場合の記録には、議事録テンプレート完全ガイドや議事録の構造化のコツも参考になります。作った引継書やAIの下書きをNotionやObsidianに保存して後任が検索できるようにしたい場合は、音声メモをNotionやObsidianに取り込む方法を参照してください。
メモリスは、こうした録音を文字起こし・要約するAIボイスメモアプリです。話すだけで手順が言語化され、引継ぎの負担そのものを軽くします。
まとめ
- 引継書が進まないのは時間不足だけでなく、暗黙知を文章に変換する作業自体が重いから
- 書く代わりに話して録音し、AIに文字起こし・要約させると下書きが一気に進む
- 担当業務・頻度・手順・関係者・トラブル対応・保管場所の6項目を、1業務5分で録音する
- 顧客情報やパスワードは録音に含めず、在り処だけを話す
- できあがった下書きはテンプレートに流し込み、固有名詞と金額だけ人の目で確認する
よくある質問
引継書を書く 時間が まったく 取れません。 どうすればいいですか?
文章を書く時間の代わりに、話す時間だけを確保する方法があります。業務ごとに5分ほど、後任やICレコーダー・スマホに向かって手順を話して録音し、その音声をAIボイスメモアプリに渡して文字起こし・要約させると、ゼロから文章を書くよりずっと短い時間で引継書のたたき台ができます。異動や退職までの残り日数が少ないほど、書く作業を減らすこの方法の効果は大きくなります。
引継書には何を 書けば いいですか?
最低限必要なのは、担当している業務の一覧、それぞれの頻度、具体的な手順、関わる社内外の関係者、トラブルが起きたときの対処法、資料やアカウント情報の保管場所の6項目です。この記事内のテンプレートは、この6項目をそのまま見出しにした構成になっています。
引継ぎの 録音に 顧客情報や パスワードを 含めても 大丈夫ですか?
含めないほうが安全です。顧客の氏名・連絡先・契約内容といった個人情報や、システムのパスワード・アカウント情報は、録音ではなく別の安全な方法(社内のパスワード管理ツールや、担当者間で直接申し送りする方法)で引き継ぐのが基本です。録音では『パスワードは〇〇の保管場所を確認』のように、情報そのものではなく情報の在り処だけを話すようにしてください。




