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2026年07月29日 18:10

OpenAIが80万件のChatGPT利用を分析、職業の垣根を越える「タスククロスオーバー」が進む

執筆: Takumi(Memolith開発者)
メモリスメモリスによる要約
  • OpenAIが米国ChatGPTユーザーの80万件超のメッセージを分析した調査「Work at the Frontier」を公表
  • 仕事関連メッセージの16.8%、職業固有メッセージの43.5%が他職業のタスク。8職種中5職種で越境作業が過半数に
  • Googleの「自動化はまだ限定的」調査とは、置き換えと拡張という表裏の関係にある

「それは自分の仕事ではない」という線引きが、静かに揺らぎ始めているのかもしれない。OpenAI Economic Researchが公表した新シリーズ「Work at the Frontier」の第1弾レポート「How AI is Expanding What People Do at Work」は、米国のChatGPTユーザーによる80万件超のメッセージを、米労働省の職業データベース「O*NET」——職種ごとに本来どんな作業が紐づくかを定めた基準表——と突き合わせて分析した(公式発表レポート本文(PDF)。日本語ではPC Watchが7月28日に紹介した)。

分析対象のメッセージは3種類に分けられる。メールの下書きや日程調整のようにどんな職業でも共通して発生する「汎用」作業が61.5%、本来の職業に直接紐づく作業が21.8%、そして本来は別の職業に属する作業が16.8%。この汎用作業を除いた「職業固有」のメッセージだけに絞り込むと、その43.5%が他職業のタスクだったという計算になる。AIに仕事の相談を持ちかける瞬間の半数近くは、実は自分の肩書きが本来カバーしない領域だということだ。

レポートが挙げる具体例は身近だ。マーケティング担当者が、開発者の対応を待たずにサイトの不具合を自分で切り分ける。営業担当者が、かつてはアナリストに回していた顧客データを自分で分析する。小規模事業のオーナーが、コピーの草稿も契約書の確認も簡単な財務分析も一人でこなす。従来なら誰かに引き継ぐしかなかった作業を、最初にその必要に直面した人がそのまま処理してしまう。レポートの著者Caroline ChinとAlex Martin Richmondは、この現象を「タスククロスオーバー」と名づけた。

職種別の内訳を見ると、越境は一方通行ではない。デザイン職は自分の職業外のタスクを扱う比率が35.2%と高い一方、デザインのタスクが他職種に「借用」される比率は1.7%にとどまる。エンジニアは18.5%対7.4%で、外へタスクを提供する側に傾く。マーケティングは24.3%対8.9%と、双方向の行き来がもっとも活発だ。さらに踏み込むと、8職種のうち5職種では「職業固有メッセージの過半数が、実は他職種のタスクだった」という。カスタマー対応は77%、デザインは75%、人事は69%、法務は56%、マーケティングは53%——名目上の専門領域より越境した作業のほうが多い職種が、半分以上を占めている。

どのタスクが職種の壁を越えやすいかも具体的だ。「財務データの計算」は財務担当以外の7職種すべてで、AIに頼る他職種タスクの上位3位以内に入り、もっとも多いのは営業職(14.3%)。「PCアプリやシステムのトラブルシューティング」も同様に7職種すべてで上位に入り、もっとも多いのはカスタマー対応職(7.6%)。中でも際立つのが、マーケティング担当者がカスタマー対応関連の内容でAIに相談したメッセージで、実に70.8%が「商品・サービス情報を顧客に説明する」という一点に集中していた。カスタマー対応の仕事の中核が、気づけば隣の部署の日常業務になっている。

企業規模による差もある。ただしこれは「利用頻度が中位のユーザー」に限った傾向で、2〜5席の小規模企業では職業外タスクの比率が18.9%、100席以上の大規模企業では16.3%まで下がる。分業体制が確立した組織ほど、越境は起きにくいということだ。一方、利用頻度が上位25%に入るヘビーユーザーでは、この規模による差がほとんど消える。レポートは、ヘビーユーザーはすでに組織の規模によらない安定した「AIとの協働の型」を確立している可能性を指摘している。越境が目立つのは、頼れる専門家が近くにいない状況でAIに助けを求める、その最初の一回だということかもしれない。

同じ7月末には、Googleの1500万件分析が「AIによる仕事の自動化はまだ限定的」と報告したばかりだ。矛盾しているように見えるが、両者は同じ現象の表と裏だろう。Googleが測ったのは、AIが人の仕事を置き換えたか——答えはノー。OpenAIが測ったのは、AIが一人のできる範囲を広げたか——答えはイエス。置き換えではなく拡張。ただしOpenAIの著者たち自身も釘を刺している。この調査が捉えたのはメッセージの内容の分類であり、AIの出力が実際に使われたか、専門家のチェックを経たか、雇用や生産性にどう影響したかまでは測っていない。「越境が起きている」ことと「専門職がいらなくなる」ことは別の話だ。

見落とせないのは、この43.5%という数字が「汎用作業」をあらかじめ除いた上での話だという点だ。メールの下書きや日程調整と並んで、要約の作成も、レポートが職種を問わず発生する「汎用」タスクの代表例に挙げている。つまり、会話を要約する作業のような仕事は、越境が話題になる以前から、そもそも特定の職業に属さない作業だったということになる。録音してAIに渡せば、参加した全員がそれぞれの持ち場へそのまま持ち帰れる成果物になる——それは職業の垣根が崩れつつあるという大きな話の一例というより、その垣根がもともと薄かった場所の話なのかもしれない。

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