
- Google Cloudの公式事例によれば、5〜10人・半日規模の撮影を生成AIなら1人・数分で補える場面がある
- ツール選定の基準は精度ではなく『専門知識がなくても直感的に使えるUI』だったと担当者は話す
- 生成AIが埋めるのは崩れた撮影の穴だけで、人手の撮影・人によるクオリティーチェックは維持されている
作業服・作業用品を扱うワークマンが、2025年から画像生成AI「Gemini 2.5 Flash Image」(愛称ナノバナナ。写真から新しい画像を生成・編集できるGoogleのAIモデル)と動画生成AI「Veo」を、EC商品ページの制作に使っている。Google Cloudが公式の顧客事例として2025年11月に公開した記事によると、全国1000店舗以上を社員500人以下、取扱アイテム約2000点という体制で回すワークマンにとって、防水・防寒のように「実際に使われるシーンを見せないと機能が伝わらない」商品の撮影は大きな負担だった。従来はロケ地選びから、カメラマンやモデルを含む5〜10人のクルー編成、半日以上のロケが必要だったが、営業企画部Eコマースグループの神谷氏は「たった一人、5分から10分で高品質なイメージ画像を生成できます」と話す。防水シューズの商品ページでは、Veoで「濡れた床を歩く」シーンの動画を生成し、機能性を直感的に伝える用途にも使っているという。同じ取り組みはITmedia NEWSも2026年8月に取材で報じている。
ツールを選んだ基準は、画像の精度そのものではない。同部の堀氏は「当社は飛び抜けた天才に頼るのではなく、標準的な能力を持つ社員が仕組みで成果を出す『100年続く凡人経営』を掲げています」と説明し、専門知識がなくても直感的に扱えるUIであることを導入の必須条件に挙げている。効果は商品撮影の代替だけにとどまらない。展示会ブースや販促物のレイアウトを検討する社内会議でも同じ画像生成AIを使うようになり、これまで言葉や参考写真で説明していたイメージを瞬時にビジュアル化することで、担当者間の認識のズレによる手戻りが減ったという(営業企画部マーケティング戦略グループの荻原勇太氏)。加えて、衣服のしわや光の反射まで再現する仮想試着(Virtual Try-on)APIの実験導入も始めている。
一方で、生成AIが撮影を丸ごと置き換えたわけではない。荻原氏はITmedia NEWSの取材に「今でも人手による撮影は大量に行われている」と明言している。生成AIが使われるのは、ロケや撮影が予定通り進まなかったときのスポット的な代替に限られ、EC掲載前には人によるクオリティーチェックを必ず通す。実在の人物の顔を生成しない、AI生成画像であることをサイト上に明記するといった社内ルールも敷いているという。アプリのプッシュ通知画像に使ったケースでは、物撮り画像より開封率が1.5倍ほど高かった例もあったと同記事は伝えている。
ここに透けて見えるのは、生成AIの効果を「精度」ではなく「歩留まり」で測る発想だ。神谷氏が語った5〜10人・半日という撮影規模を思えば、生成AIが担っているのは制作コストの丸ごとの置き換えではなく、撮影が崩れたときの穴埋めに絞られている。堀氏の言う「凡人経営」——特別な技能を持つ一握りの人材に頼らず、標準的な力量の社員でも仕組みで成果を出せるようにする発想——も、実は同じ考え方の裏返しだ。この優先順位は、会議の記録や資料作成にAIを取り入れる場面にもそのまま置き換えられる。すべてを自動化しようとするより、担当者が捕まらない・締め切りに追われて記録が雑になる、といった「崩れる瞬間」だけをAIに任せたほうが、投資対効果は早く出やすい。
アプリ通知の開封率1.5倍という数字も、この文脈で読むほうが実態に近い。ロケが崩れて予定通り配信できなければ、その回の通知や商品ページは弱いコンテンツのまま、あるいは欠番のまま公開されていたはずだ。生成AIが埋めたのは「クオリティーの上限」ではなく「ゼロになる場面」であり、この違いは中小規模の組織がAI活用の優先順位を決めるときの目安になる。ワークマンが商品画像の掲載前チェックやAI生成である旨の明記を外していないのも同じ理由からだろう——生成AIに任せているのは「作る・作らない」の判断であって、「事実として正しいか」の最終確認まで手放しているわけではない。会議の議事録作成や資料整理でも、担当者不在で記録が抜け落ちる、締め切りに追われて要約が雑になる、といった「途切れる瞬間」をAIで埋めつつ最終チェックは人が担う、という同じ形が成り立つ。




