
- トランプ氏がAnthropic CEOの週末のAI減速提起を、善人ぶった態度だと非難する投稿などで否定した
- 中国外交部・国営メディアも同じ減速案を「フィアモンガリング」「冷戦の常套手段」と批判した
- 規制による歯止めは当面見えず、AI活用の判断は現場の検証体制に委ねられる局面が続く
トランプ米大統領は、AI開発企業アンスロピックのCEOダリオ・アモデイ氏が週末に提起したAI開発の減速論を退けた。米ニュースレターThe Rundown AIが2026年9月15日までに報じた。
アモデイ氏の呼びかけは、フロンティアAI(最先端のAIモデル)の開発ペースを落とすべきだという主張で、OpenAIのサム・アルトマン氏やイーロン・マスク氏も支持していたという。これに対しトランプ氏は、自身が使うSNS「Truth Social」上でアモデイ氏が善人ぶった態度を取っていると非難し、「知能指数の高い」大統領こそがAI技術に必要な唯一の歯止めだと主張した。さらに、AIが世界を支配し人類を破滅させるといった懸念はすべて根拠のない作り話だと述べ、気候変動になぞらえてもいる。
同じ減速案には、中国側も反対を表明した。中国外交部はこの案を「フィアモンガリング(恐怖扇動)」と評し、対立や悪意ある競争への従事はいかなる当事者の利益にもならないと述べた。国営メディアのグローバル・タイムズは、中国を最先端AIチップから排除しようとするアモデイ氏の呼びかけを「冷戦の常套手段」だと批判している。米大統領と中国政府という、本来なら利害が対立する二つの当事者が、同じ論点に対してそろって「減速しない」という立場を取った形になる。
読者にとって意味を持つのは、この足並みの揃い方である。フロンティアAIの開発企業がどれだけ慎重論を唱えても、それを止める外部の歯止めは当面現れそうにない。会議や商談の記録をAIに任せるかどうかを判断する立場にとっては、「規制が追いついてから使う」という選択肢が近い将来に成立しにくいことを意味する。録音した音声をあとからテキスト化し要約するメモリス(AIボイスメモ)のような道具も、この前提の上で選ぶ必要がある。
この対立から引き出せる実務上の結論は、AI活用の歯止めを規制ではなく自分の手元に置くべきだ、というものである。トランプ氏は大統領の判断力そのものを歯止めとして提示し、中国外交部は対立の回避を優先課題に据えた。報じられた発言の範囲では、どちらの立場にも、業界横断で拘束力を持つ第三者ルールへの言及はない。フロンティアAIの開発を止める国際的な合意形成が近く動く気配は、この応酬からは読み取れない。だとすれば、会議の議事録や打ち合わせメモをAIに要約させる作業でも、出力を鵜呑みにせず誰がどの段階で確認するかを、利用者側があらかじめ決めておくしかない。規制が線引きしてくれる前提で運用を組むと、その前提自体がいつまでも成立しない。
もう一つ押さえておきたいのは、アモデイ氏の提案がアルトマン氏とマスク氏という、通常は競合関係にある経営者を一時的に同じ側に立たせた点である。開発ペースを巡る利害は、企業間の競争軸とは別の軸で分かれつつある。フロンティアAIを提供する側の企業が足並みをそろえて減速を呼びかけても止まらないのであれば、利用者側が「業界の総意」を待って導入判断を先送りする理由は薄い。使う場面を選びながら、今使えるAIをどう安全に組み込むかを個別に判断していく姿勢のほうが現実的だろう。




