- OpenAIのAstraが未解決問題10件を解決、5月のエルデシュ予想反証に続く成果
- 証明はLeanで形式化し思考過程も公開、論文化は人手で実施
- フロンティアの推論力向上が日常業務の品質に直結するとは限らない
数学には、何十年も解けないまま置かれている問題がある。それをAIが片づけたと聞くと、まず疑いたくなる。誇張ではないのか、と。
OpenAIは8月1日、次世代モデル「Astra」が数学および理論計算機科学の未解決問題10件を解決、あるいは大幅に前進させたと発表した。5月に発表されたエルデシュの単位距離予想の反証に続く成果だという(PC Watchの報道)。対象は高次元の球充填、非ソフィック群の存在証明、コンヌの剛性予想の反証、多色ラムゼー数など多岐にわたる。いずれも専門家がそれぞれ独立に長年取り組んできた領域だ。
疑いを持ったまま先を読むと、OpenAIが自ら釘を刺している一文に行き当たる。「AIが完全に生成した証明を人間の手柄とすることは、AIの貢献と人間の真の知的活動の両方を偽ることになる」。だから論証そのものはAstraが生成しつつ、論文の形式に整える作業は同じモデルを使って人間の手で行われ、証明はLeanで形式化、各問題への思考過程も公開されている。誰が何をやったかを曖昧にしないという判断が、成果そのものより誠実に見える。
Astraが問題に取り組んだトークンのコストは、ChatGPT-5.6 SolのAPI料金換算でおよそ2,000ドル(約31万円)相当だったと発表されている。10件の未解決問題という重みに対して、額としては軽い。ただしこれは1問あたりの数字なのか10問合計なのか、発表からは特定できない。
検証可能性そのものが成果の中核に置かれている点は見逃しにくい。証明をLeanで形式化し、思考過程を丸ごと公開するという構えは、出力が正しいかどうかを人間の目でなく機械的に確かめられる領域だから成立する。議事録や要約のような自然言語の出力には、これに相当する検証手段がまだ無い。発言と要約が一致しているかどうかの確認は、結局読む人間に残ったままだ。
数学の証明が解けたからといって、会議の要約や資料作成がそのまま賢くなるわけではない。推論性能の指標が伸びたことと、日常業務のアウトプットの質が上がることは、別の軸の話として扱ったほうがいい。
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