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2026年08月04日 19:30

OpenAIの新モデル「Astra」、数学の未解決問題10件を解決したと発表

執筆: Takumi(Memolith開発者)
メモリスメモリスによる要約
  • OpenAIのAstraが未解決問題10件を解決、5月のエルデシュ予想反証に続く成果
  • 証明はLeanで形式化し思考過程も公開、10問合計のコストは約31万円
  • 数学の証明は機械的に検証できるが、会議の要約にはまだ同等の検証手段がない

数学には、何十年も解けないまま置かれている問題がある。それをAIが片づけたと聞くと、まず疑いたくなる。誇張ではないのか、と。

OpenAIは2026年8月1日、次世代モデル「Astra」が数学および理論計算機科学の未解決問題10件を解決、あるいは大幅に前進させたと公式に発表した(国内ではPC Watchなども伝えている)。5月に発表したエルデシュの単位距離予想の反証に続く成果だとしている。対象は高次元の球充填、非ソフィック群の存在証明、コンヌの剛性予想の反証、多色ラムゼー数など多岐にわたる。いずれも専門家がそれぞれ独立に長年取り組んできた領域だ。

疑いを持ったまま先を読むと、OpenAIが自ら釘を刺している一文に行き当たる。「AIが完全に生成した証明を人間の手柄とすることは、AIの貢献と人間の真の知的活動の両方を偽ることになる」。OpenAIはこの発表の中で、AIが数学研究に与える影響を懸念する数学者らの声明「Leiden宣言」の署名者への理解も表明している。だから論証そのものはAstraが生成しつつ、論文の形式に整える作業は同じモデルを使って人間の手で行われ、証明はAstra自身がLean(証明の一つひとつのステップをプログラムが機械的に検証できる形に書き直す、定理証明支援ツール)で形式化し、各問題への思考過程も公開されている。誰が何をやったかを曖昧にしないという判断が、成果そのものより誠実に見える。

Astraが10件の問題を解くために要したトークンの総コストは、「GPT-5.6 Sol」のAPI料金換算でおよそ2,000ドル(約31万円)だったとOpenAIは明らかにしている。これは10問合計の金額であり、単純に等分すれば1問あたり200ドル(約3.1万円)ほどになる計算だ。専門家が何年もかけて取り組んできた未解決問題が、API利用料換算で数万円の水準で解けてしまうという事実は、成果の中身以上にコストの軽さが際立つ。

5月のエルデシュ予想の反証は、発表しただけで終わっていない。OpenAIによれば、この反証をきっかけに複数の数学者が追加の論文を発表しているという。例えばBloom、Sawin、Schildkraut、Zhelezovの4人による「実数におけるsum-product予想の反証」は、その流れで生まれた研究の一つだ。AIが出した結果が実際に人間の数学者の検証や応用を誘発しているという事実は、今回の10件が話題性だけで終わる成果なのかどうかを見極める材料になる。

検証可能性そのものが今回の発表の中核に置かれている点も見逃せない。Astraの証明がLeanで機械的に検証済みだという主張は、人間の数学者が一行ずつ査読しなくても、真偽の判定をプログラムに委ねられるという意味だ。数学の証明は各ステップの正誤を厳密に定義できるからこそ、この機械的検証が成立する。ところが、議事録や要約のような自然言語の出力には、これに相当する「機械的な正誤判定」がまだ存在しない。要約が実際の発言内容と食い違っていないかどうかは、結局のところ人間が元の音声や文字起こしと突き合わせて確認するしかない。

数学の証明が10件解けたからといって、会議の要約や資料作成がそのまま賢くなるわけではない。今回の発表が示しているのは、検証コストをゼロに近づけられる領域(数式・コード・数学的証明)と、検証コストが人間に残り続ける領域(自然言語の要約・議事録)の差がはっきりしてきたということだ。日常業務でAIの出力を使うときは、モデルの推論性能がどれだけ向上したかより、その出力を自分がどれだけ手早く裏取りできるかという観点で選んだほうが、実務上の失敗は減らしやすい。

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