
- AI生産性向上の実感は日本57%・世界平均81%で24ポイント差(アクセンチュア調査)
- 経営層の投資意欲(78%)は世界と大差ないが、成果を語れる自信は48%で世界55%に届かない
- アクセンチュア幹部は差の正体を「技術を人と組織にどう組み込むか」の差と分析
AIによって生産性が向上したと答えた日本の従業員は57%にとどまり、世界平均の81%を24ポイント下回った。アクセンチュアが8月19日に発表した調査「Pulse of Change」(一次配信はPR TIMES)によるもので、AI導入後に仕事の満足度が高まったという回答も日本は48%、世界平均は71%と差が開いている。ITmedia NEWSなども報じた。
調査はアクセンチュアが4〜6月に20カ国・19業種の経営層と従業員それぞれ3000人(日本はそれぞれ100人)に実施した。日本の従業員では「特に変化はない」との回答が37%に上り、リスキリング(学び直し)を「企業に頼らず自力で行う必要がある」と考える人も50%と世界平均(45%)を上回った。経営層側の自己評価にも同じ構図がある。今後12カ月でAIへの投資を拡大すると答えた日本の経営層は78%で世界平均(82%)とほぼ差がないのに、AI活用による全社的な成果を「すでに実現できている」としたのは13%で、世界平均(23%)を10ポイント下回る。AIの取り組みが経営会議に語れるだけの定量的な成果を出せていることに「十分または高い自信がある」と答えた経営層も48%で、世界平均(55%)に届かない。投資は増やしているが、成果として言語化できる段階にはまだ届いていない、という自己認識が数字に表れている。
アクセンチュアはこの差を、技術力そのものの優劣ではなく「技術を人と組織にどう組み込むか」の差だと位置づけている。常務執行役員でAIセンター長を務める保科学世氏は発表資料の中で、AI投資を成果に変える鍵は「システム・業務・人という三つの要素を一気通貫で動かし、なかでも人の判断と創造性が活きる場所を意図的に設計し直すこと」にあると述べ、単純に仕事を減らすのではなくAIを前提に「一段上の仕事」へ引き上げる発想を挙げている。執行役員の本徳亜矢子氏も、リスキリングを従業員一人ひとりの自助努力に委ねず、企業側が学びや役割移行を支える環境を整える必要があると指摘した。日本の従業員の50%が「リスキリングは自力で行うしかない」と感じているという数字は、この指摘と符合する。AIツールの操作方法だけが現場に渡され、その先の役割の再設計は誰の仕事にもなっていない状態が、複数の数字から浮かび上がる。
この「一段上の仕事」への引き上げが起きるかどうかは、AIが個々の作業を代替した後に空いた時間を、職場側が何に使うと決めるかにかかっている。会議の議事録作成やメール処理にAIツールを使っていても、その運用が「入力を減らす」ところで止まり、空いた時間の使い道を誰も決め直していない職場は多い。たとえば議事録係だった人が、AIに文字起こしと要約を任せた後も従来通り清書と配布だけを担当するなら、作業時間は減っても役割は何も変わっていない。空いた時間を、決定事項のフォローアップや次の打ち手の検討に振り向けると決めて初めて、生産性の実感は生まれる。今回の調査で「特に変化はない」という回答が37%に上ったのは、AI導入が入力作業の代替にとどまり、役割の再設計にまで踏み込めていない職場の割合を映していると読める。
着手点として現実的なのは、記録が発生する業務を録音から共有・次のアクションまで一気通貫でAIに任せる形に変えることだ。会議や商談の音声をスマートフォンで録音し、AIボイスメモアプリに文字起こし・要約させる用途は、既存の業務プロセスをほとんど変えずに導入できる。録音という行為自体はこれまでも行われてきたものであり、変わるのは「録音した音声を誰がどう処理し、空いた時間を何に使うか」の設計だけだ。個々の従業員が使えるAIツールの数を増やすより、一つの業務でこの一気通貫の置き換えを定着させ、浮いた時間を人の判断が要る仕事に振り向けるほうが、日本の従業員が抱える「特に変化はない」という感覚を崩す近道になる。




