- 会議は「みんなが知っている話」が優先的に語られ、一人しか持たない情報は埋もれやすい
- Stasser & Titus 1985の実験がこの構造を最初に示した
- Lu et al. 2012の分析では完全情報の集団より正解到達が8倍難しいと報告された
会議のあと、なんとなく「話し合った感」は残っているのに、決めた内容を振り返ると誰か一人が知っていた事実が結局共有されずに終わっていた、ということがある。単なる進行の下手さだと思われがちだが、そうとも言い切れない。むしろ、集団で話し合うという行為そのものに、共通の情報ばかりを優先してしまう構造上の癖があるのだとしたら、話は違ってくる。
隠されたプロファイルという現象
心理学ではこれを「隠されたプロファイル(hidden profile)」と呼ぶ。各メンバーが断片的に持つ情報をすべて集めれば最適な結論に届くのに、話し合いの場では全員が最初から知っている「共通情報」ばかりが繰り返され、一人か二人しか持っていない「独自情報」が話題に上がらないまま議論が終わる状態を指す。
情報は足りているのに、結論には届かない。足りないのは情報ではなく、それを場に出す機会のほうだ。
最初にこれを示した実験
この構造を最初に実証したのが、Stasser, G., & Titus, W.(1985年、Journal of Personality and Social Psychology)の研究である。参加者をいくつかのグループに分け、ある候補についての情報を、全員に共通するものと、一人にしか渡されないものに分けて配布し、グループ討議で最適な選択にたどり着けるかを検証した。
結果は、情報の配り方によって討議の質そのものが変わることを示していた。全員が同じ情報を持っている条件では議論はスムーズに正解へ向かう。ところが、情報が断片化され、各メンバーが違う破片を持つ条件になると、討議は同じ土台の上でも簡単には正解に届かなくなる。個々の頭の中には最適解に必要な材料がすべて揃っているのに、それが場に出てこないからだ。
25年分の追跡調査が示したもの
一つの実験だけなら、条件設定の特殊性を疑う余地も残る。そこで意味を持つのが、Lu, L., Yuan, Y. C., & McLeod, P. L.(2012年、Personality and Social Psychology Review)によるメタ分析である。65件の研究・3,189集団という規模のデータを統合したこの分析は、隠されたプロファイル状態にある集団が、完全情報を共有している集団に比べて8倍正解にたどり着きにくいと報告している。
一度きりの実験結果なら、運用の工夫でどうにかなる話だと思えるかもしれない。だが四半世紀にわたって繰り返し確認された傾向だとなると、これは進行の巧拙で吸収できる誤差ではない。討議という営みそのものに内在する癖として扱うべき数字だ。
なぜ共通情報ばかり話されるのか
理由は単純ではないが、いくつかの説明が積み重ねられている。一つは統計的な優位性だ。共通情報は複数人が持っているぶん、誰かの発言として場に出てくる確率がそもそも高い。もう一つは心理的な安全性である。すでに他の人も知っている話は、口に出しても浮かない。一人だけが握っている情報は、それを話した瞬間に自分の判断が試される。だから、安全な話題が先に消費され、リスクを伴う断片情報は後回しにされやすい。
会議が長引くほど独自情報が出やすくなるかといえば、必ずしもそうではない。時間をかけても、参加者が「もう十分話した」という感覚に達した時点で議論は収束に向かい、まだ出ていない断片はそのまま置き去りにされる。
議事録・会議設計との接点
ここで問い直したくなるのは、事後の記録がこの構造にどう関わるかということだろう。議事録は「話されたこと」を残す仕組みであって、「話されなかったこと」を教えてくれるわけではない。録音を元にAIが会議後に処理して要点を整理する仕組みも同様で、発言が記録として後から見返せるようにはなるが、発言されなかった断片情報を掘り出す機能ではない。
それでも、後から見返せる記録が果たす役割は小さくない。誰がどの話題にどれだけ発言していたかが記録として残っていれば、次の会議のアジェンダを組む段階で「今回まだ発言していないメンバーに、あらかじめ意見を書面で出してもらう」といった対策を打つ材料になる。隠されたプロファイル研究の応用でよく挙げられる対策も、実際にはこの方向にある。討議前に各メンバーの持つ情報を書面で提出させる、発言順を工夫して情報を持つ人が先に話せるようにする、といった進行側の設計変更だ。
まとめ
各メンバーの頭の中には最適解に必要な材料が揃っているのに、討議の場では共通の話題ばかりが優先され、断片情報が埋もれる。Stasser & Titusの実験がこれを最初に示し、Lu et al.の大規模な追跡調査が、偶然では説明できない規模で再現し続けていることを裏付けた。会議の進行を見直す際、「誰が発言したか」だけでなく「まだ発言していない人が何を持っているか」に目を向ける余地は、まだ残っている。
AIボイスメモを試してみませんか?
難しい設定は不要です。録音ボタンを押すだけで、あとはAIが文字起こし・要約・議事録まで仕上げます。
iOS / Android 対応