Whisper・GPT-4o Transcribe・Geminiを 実測比較|精度は 条件で 逆転する
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- 2026年08月20日:関連記事「文字起こしAIの精度はエンジンで決まる|選び方のコツ」への内部リンクを追加しました
- 2026年08月05日:現代の対話音声の条件について、Gemini 2.5 Flashの実測を追加し3モデル比較として再構成しました。データセットの出典情報(J-CRe3の論文citation、防災行政無線の出典元と公開根拠)もあわせて明記しました。
- 2026年08月05日:検証条件を見直し、実際の対話データを用いた検証に更新(数値・誤り事例も更新)。防災無線の音声が合成音声であることも本文に明記しました。

- 現代の自然な対話音声では、Whisperが実際には存在しない発言を3回繰り返す「幻覚」を起こした。GPT-4o Transcribeにも数字を含む発言を誤変換する弱点があった。Geminiも「割り算」を「折り紙」に取り違えるなど、意味が変わる誤変換を起こした
- 方言・古い録音のような難条件ではGemini 2.5 Flashが最も内容を落とさず書き起こした
- 自治体の合成音声・警報音が混じる条件では、Whisperだけが警報音を「ああああああ」という幻覚テキストに変換した
「文字起こしAIはどれも同じような精度だろう」——そう思っている人は多いはずです。しかし、実際に複数のモデルへ同じ音声を投げて書き起こしを比べてみると、「どのモデルが一番良いか」ではなく「どの条件で何が弱いか」がモデルごとに違うことがわかりました。
この記事では、OpenAIのGPT-4o Transcribe・Whisper、GoogleのGemini 2.5 Flashという3つのモデルに、性質の異なる3つの音声条件——現代の自然な対話・60年前の方言録音・自治体の合成音声——を投げて書き起こしを比較した結果をそのまま公開します。
検証方法
条件をそろえるため、3つのモデルに同じ音声ファイル・同じ指示文を渡し、書き起こし結果をそのまま比較しました。
- GPT-4o Transcribe(OpenAI、メモリスが採用しているエンジン)
- Whisper(
whisper-1、OpenAIの従来モデル) - Gemini 2.5 Flash(Google、マルチモーダルモデルとして音声を直接処理)
使用した音声(現代の肉声・昔の肉声・機械音声、あえて条件を変えた3種類)
自分で読み上げた音声では、実際の音声認識の難しさを再現できません。そこで、著作権・利用規約が明確な音声を3種類用意しました。今回は「音声の性質」が結果にどう影響するかを見るため、あえて条件の異なる3種類を選んでいます。1つは自治体が運用する合成音声(機械音声)で、これは意図的に選んでいます(会議録音にも自動アナウンスや案内放送が混じることがあるため)。
- J-CRe3(理化学研究所、2024年公開) — ロボットが日常のタスクを手伝う場面を再現した、俳優2名による実際の対話(close-talkingマイクで収録)。CC BY-SA 4.0で公開されている研究用データセットです。今回はそのうち1シナリオ(4分28秒、電池切れへの対応からゲームの計算まで)を使用しました。データセットの出典:Nobuhiro Ueda, Hideko Habe, Yoko Matsui, Akishige Yuguchi, Seiya Kawano, Yasutomo Kawanishi, Sadao Kurohashi, Koichiro Yoshino. "J-CRe3: A Japanese Conversation Dataset for Real-world Reference Resolution." Proceedings of the 2024 Joint International Conference on Computational Linguistics, Language Resources and Evaluation (LREC-COLING 2024), pp. 9489–9502, Turin, Italy, 2024.
- 京都市方言の自然会話(1964年6月収録) — 20代女性2人による方言での自然な会話。国立国語研究所(収録:上村幸雄・徳川宗賢)が「方言録音資料シリーズ11 京都市方言」として1969年に編纂した音源。CC BY 4.0で公開されています。
- 上野原市(山梨県)防災行政無線 訓練放送(2021年11月) — 緊急地震速報の訓練放送。人間の肉声ではなく、自治体の防災無線でよく使われる合成音声によるアナウンスです。出典は山梨県上野原市公式サイトの防災行政無線放送ページで、著作権法第13条(地方公共団体が発する告示等は著作権の対象にならないと定める規定)に基づき、パブリックドメインとして公開されています。
出典・権利者に感謝します。各リンク先で元データと詳細なライセンス情報を確認できます。
結果1:現代の自然な対話音声 — Whisperが実際には無い発言を3回繰り返す幻覚
素材はJ-CRe3という、理化学研究所(RIKEN)が公開している実世界日本語対話データセットです。ロボットが日常のタスクを手伝う場面を、5名の俳優をペアにして実際に発話・収録したもので、close-talking(近接)マイクで録られた正真正銘の肉声です。この音声(4分28秒)をWhisper・GPT-4o Transcribe・Gemini 2.5 Flashの3モデルに書き起こしさせました。
もっとも際立ったのは、Whisperが実際には存在しない発言を繰り返した点です。実際の発話は次の1回だけでした。
ロボット「あれ、一が一つ足りないですね。」(実際の発話。1回のみ)
ところがWhisperの書き起こしでは、このフレーズが変形しながら3回余分に繰り返されていました。
「…11です あれ?1が1つ足りないですね 1が1つ足りないのかな? 1が1つ足りないのかな? 1が1つ足りないのかな? あれ?1が1つ足りないですね あれ?本当だね」
これは音声認識モデルの既知の弱点である「繰り返しループ」型の幻覚です。以前の検証では警報音のような非音声音に対する幻覚を確認しましたが、今回は正常な人間の発話に対しても同様の現象が起きることが確認できました。
GPT-4o Transcribeにこの繰り返しは見られませんでしたが、別の種類の誤りがありました。
| 実際の発話 | GPT-4o Transcribeの書き起こし |
|---|---|
| 数字パズル面白そうですね | 数字パネル面白そうですね |
| テーブルやソファーの下にないかな | テーブルやスクールの下にないかな |
| えーっと五たす六は十一です | えっと、5たするか。11です |
| パズルゲームならいつでも | 忘れゲームならいつでも |
特に「五たす六は十一です」が「5たするか。11です」に化けた例は見過ごせません。足し算の途中式(「6」という数字と「たす」という演算)がまるごと失われ、意味の通らない文になっています。数字を含む発言は議事録で重要になりやすい箇所だけに、こうした変化は実務上のリスクです。
Gemini 2.5 Flashに同じ音声を渡すと、Whisperのような繰り返しループ型の幻覚や、GPT-4o Transcribeのような区間の丸ごと欠落は見られませんでした。一方で、単語単位で意味が変わってしまう誤変換がいくつか見つかりました。
| 実際の発話 | Geminiの書き起こし |
|---|---|
| これ、ここがついてないので、電池切れかもしれないですね | 残りついてないので電池切れかもしれないですね |
| カラフルですね。割り算とかもあるんですね? | カラフルですね。折り紙とかもあるんですね |
| テーブルやソファーの下にないかな | テーブルやスプーンの下にないかな |
特に「割り算」を「折り紙」に取り違えた例は、意味がまったく別の言葉に変わってしまっており見過ごせません。また「テーブルやソファーの下」という発言は、GPT-4o Transcribeが「スクール」と誤変換したのと同じ区間ですが、Geminiは「スプーン」と、両モデルとも異なる単語に誤変換していました。この区間には、モデルを問わず聞き取りにくい要素が含まれていた可能性があります。
Geminiにも、実際にはない言葉が挿入され、実際にあった発話が消えるという幻覚に近い現象が1箇所ありました。実際の発話は次の通りです。
主人「うーんそうか、何が原因か分からないけど、故障したのかもね。どうしよう。」
ところがGeminiの書き起こしでは「どうしよう」が消え、代わりに実際には存在しない「でしょう」という一言が挿入されていました。
「…何が原因か分からないけど、故障したのかもね。でしょう。うん。こちら後で修理に出しておきますね。」
Whisperの3回繰り返しほど派手ではありませんが、実在しない言葉が生成され、実在した言葉が消えている点では同じ種類の誤りです。
一方でGeminiは、GPT-4o Transcribeが誤変換した「五たす六は十一です」を「5+6は11です」と、数字表記に変わりつつも演算の意味を保ったまま正しく書き起こせていました。GPT-4o Transcribeがこの発言を「5たするか。11です」と演算そのものが崩れる形で誤変換していたのとは対照的です。
なお「数字パズル」を「数字パネル」と誤認識した点は、Whisper・GPT-4o Transcribe・Geminiの3モデルすべてに共通していました。この語には、モデルを問わず聞き取りにくい要素が音声に含まれていた可能性があります。
結果2:難条件(方言・古い録音) — Geminiが最も内容を落とさず、GPT-4o Transcribeは一部をまるごと欠落
1964年の京都方言の会話は、条件としてはかなり厳しいものです。古いテープ特有のノイズがあり、方言特有の言い回しも多く含まれます。
ここでは評価が入れ替わりました。Geminiが最も完全に会話を書き起こし、他の2モデルが落としている以下の発言も拾えていました。
「知らん。そこ、電話たらたんとちゃうんかって言うて。大きい声。そうやん。」
これに対し、GPT-4o Transcribeはこの一区間をまるごと欠落させ、直前の発言から次の発言へ飛んでいました。要約されたのではなく、文字通り存在しない扱いになっていた点は見過ごせません。
Whisperはこの条件でさらに別の問題を見せました。実在するホテル名「都ホテル」を「部屋ホテル」と誤認識し、聞き取りにくい箇所では文脈と噛み合わない文章を生成する様子も見られました。
結果3:機械音声+警報音が混じる条件 — Whisperだけが非音声音を「幻覚」した
上野原市の防災行政無線の訓練放送を素材にしました。自治体の防災無線の多くは合成音声(機械音声)で運用されており、この音源も人間の肉声ではなく合成音声によるアナウンスです。加えて、緊急地震速報を知らせる電子音(警報音)が発話の前に3回挿入されています。「合成音声+警報音」という、実際の会議録音にも起こりうる組み合わせに対して、モデルがどう反応するかを見ました。
- Gemini・GPT-4o Transcribe:警報音を正しく無視し、合成音声のアナウンス内容だけをクリーンに書き起こし
- Whisper:警報音の箇所を「ああああああ ああああああ」という、実際には存在しない発言に変換。しかも3回とも同じパターンで再現されました
これは音声認識モデルの既知の弱点である「非音声音・無音への幻覚(ハルシネーション)」が、実際のデータで再現された形です。実際の会議でも、通知音・着信音・自動アナウンス・物を置く音などが録音に混じることは珍しくないため、他人事ではありません。
まとめ:単一の「最強モデル」は存在しない
3つの条件を通して見えたのは、モデルごとに得意・不得意がはっきり分かれるということです。
- 現代の自然な対話:Whisperが実際には無い発言を繰り返す幻覚を起こす、GPT-4o Transcribeは数字を含む発言を誤変換することがある、Geminiも一部の単語を意味の異なる語に取り違えることがある
- 方言・古い録音などの難条件:Geminiが内容を落としにくい、GPT-4o Transcribeは一部欠落のリスクがある
- 合成音声・警報音などの非音声音:GPT-4o Transcribe・Geminiは正しく無視、Whisperは幻覚を起こす
メモリスはGPT-4o Transcribeを採用していますが、今回の実測が示す通り、どのエンジンにも固有の弱点があるというのが率直なところです。特に「一部の発言をまるごと欠落させることがある」「実際には無い発言を繰り返す」という結果は、精度の高さとは別軸のリスクとして知っておく価値があります。だからこそ、決定事項や固有名詞のように後から影響が大きい箇所は、AIの下書きをそのまま確定させず、人が一度目を通す運用が安全です。
文字起こしの精度が録音環境やエンジンの世代によってどう左右されるか、全体像から知りたい場合は文字起こしAIの精度はエンジンで決まる|選び方のコツを参考にしてください。
あわせて読みたい:
よくある質問
GPT-4o Transcribeと Whisper、 どちらが 精度が 高いですか?
条件によります。現代の自然な対話音声では、Whisperが実際には存在しない発言を3回繰り返す「幻覚」を起こしましたが、GPT-4o Transcribeにこの繰り返しは見られませんでした。一方でGPT-4o Transcribeにも、「五たす六は十一です」という発言が「5たするか。11です」に化けるなど、数字を含む発言を誤変換する例がありました。方言混じりの古い録音では、GPT-4o Transcribeが会話の一部をまるごと落とすという弱点も確認しています。単純にどちらが優れているとは言えず、それぞれ異なる種類の誤りを起こします。
AIの 文字起こしで、 警告音や 物音が おかしな テキストに 変換される ことは ありますか?
あります。今回の実測では、自治体の防災行政無線(合成音声によるアナウンス)に含まれる地震早期警報の警報音(非音声)に対して、Whisperだけが「ああああああ」という実際には存在しない発言を生成しました(幻覚・ハルシネーションと呼ばれる既知の弱点です)。GPT-4o TranscribeとGeminiは同じ音声で警報音を正しく無視しています。
文字起こしAIを 選ぶとき、 精度以外に何を 確認すべきですか?
単一のモデルが常に最も正確とは限らないため、重要な会議では書き起こし結果をそのまま鵜呑みにせず、決定事項や固有名詞など重要な箇所だけでも見直す習慣が安全です。特に音質が悪い・専門用語や固有名詞が多い会議では、AIの下書きを人が確認する前提で運用するのが現実的です。