録音の ビットレートを 下げると AI文字起こしは どこから 崩れるか実測
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- 2026年08月20日:関連記事「文字起こしAIの精度はエンジンで決まる|選び方のコツ」への内部リンクを追加しました
- 2026年08月05日:検証条件を見直し、実際の対話データを用いた検証に更新。検証結果(誤り数・誤り事例・グラフ)も合わせて更新しました。

- 元音声の時点でも数字や固有名詞の誤りが4件あり、AIの文字起こしは劣化前から完璧ではない
- 64kbps・16kHzで誤りは約2倍(8件)に、24kbps・8kHzでは15件まで増加
- 電話帯域相当(8kbps・8kHz+帯域制限)では18件で、足し算の数字が2つとも消えるなど実用に耐えない誤りも発生
「スマホの録音品質が悪いと文字起こしの精度が落ちる」——これは直感的には正しそうですが、具体的にどこから崩れ始めるのかは、実際に試してみないとわかりません。しかもOpenAIの公式ドキュメントには、ファイルサイズの上限(25MB)と対応フォーマットの記載こそあれ、「これくらいのビットレート・サンプルレートを推奨する」という具体的な数値は公開されていません。だからこそ、自分で試して確かめる価値があります。今回は同じ音声を意図的に劣化させ、前回の検証で使ったクリーンな音声を素材に、GPT-4o Transcribeでの文字起こし精度がどう変化するかを実測しました。
検証方法
ベースとなる音声は、前回の検証で使用したJ-CRe3(理化学研究所公開、CC BY-SA 4.0)の1シナリオ(4分28秒、俳優2名による実際の対話)です。同じ音声をffmpegで以下の4段階に加工し、それぞれをGPT-4o Transcribeで文字起こししました。
| 段階 | 設定 | イメージ |
|---|---|---|
| ①元音声 | 高音質(モノラル化のみ) | 良好な録音環境 |
| ②64kbps・16kHzモノラル | 一般的なボイスメモ相当 | スマホの標準的な録音 |
| ③24kbps・8kHzモノラル | 古い電話品質相当 | 遠い・小さい声での録音 |
| ④8kbps・8kHzモノラル+帯域制限(300〜3400Hz) | 電話回線帯域相当 | スピーカー越し・悪条件のBluetoothマイク等 |
※④は当初12kbpsを想定していましたが、この設定(8kHz・モノラル)でエンコードできるMP3の最小ビットレートが8kbpsだったため、実際に出力された値をそのまま採用しています。②・③と同じMP3コーデックに統一することで、コーデックの違いがビットレートの影響と混ざらないようにしています。
結果:元音声から誤りゼロではない。劣化するほど誤りは増える
4段階での誤り数(固有名詞・数字・意味を変える誤りの合計)をグラフにすると、劣化の様子がはっきり見えます。
①元音声:劣化させていなくても誤りはゼロではない
まず前提として、劣化させる前の元音声(高音質)の時点で、GPT-4o Transcribeにはすでに4件の誤りがありました。たとえば「五たす六は十一です」という発言が「5たするか。11です」に変わるなど、数字を含む発言の誤変換です。AIの文字起こしは、録音品質が良くても完璧ではないという前提から出発する必要があります。
②64kbps・16kHz:誤りは約2倍に
②(64kbps・16kHz、一般的なボイスメモ相当)になると、誤りは8件とほぼ倍増します。
| 正しい内容 | ②での誤り |
|---|---|
| 乾電池の予備 | 寒電池の予備 |
| 割り算とかもあるんですね | 折り算とかもあるんですね |
| 「どうしよう。うーんこちらは後で修理に出しておきますね」 | (この一文が丸ごと欠落) |
| テーブルやソファーの下 | テーブルやスコーンの下 |
「乾電池」が「寒電池」になるような固有名詞の誤変換に加え、発言が一文まるごと欠落するという、単なる誤字とは違う種類の誤りも見られました。一般的なボイスメモ相当の品質であっても、決して無視できない変化です。
③24kbps・8kHz:意味そのものが変わる誤りが増加
③(24kbps・8kHz)になると、誤りは15件までさらに増え、内容が正反対に近い形で変わってしまう例も出てきます。
| 正しい内容 | ③での誤り |
|---|---|
| 単四電池が三つ必要 | 3,4電池が三つ必要 |
| 「いや大丈夫ですよ」 | 「(幻覚)準備しよう」 |
| 五たす六は十一です | これを足す6は十一です(「5」が消失) |
| テーブルやソファーの下 | テーブルやスプーンの下 |
特に「いや大丈夫ですよ」(心配ないという返答)が「準備しよう」というまったく違う発言に変わってしまった例と、「五たす六」の「5」という数字そのものが消えてしまった例は見過ごせません。誤字レベルではなく、会話の趣旨や数字そのものが変わる誤りが目立ち始めます。
④8kbps・8kHz+帯域制限(電話帯域相当):もっとも誤りが多い
④(電話帯域相当)では誤りが18件まで増え、今回の4段階でもっとも崩れた結果になりました。
- 「いや大丈夫ですよ」→「(幻覚)じゃあ、選手交代しよう」(会話と無関係な内容に変化)
- 五たす六は十一です → こう落とせば十一です(「5」と「6」の両方が消失)
- 割り算とかも → オリゾンとかも(存在しない単語に)
- 「数字パズル」→「数字パネル」(2箇所とも)
- 探してみますね → 触ってみますね
「五たす六」の数字が2つとも消えてしまう例からもわかる通り、電話帯域相当まで劣化すると、数字を含む発言はほぼ信用できなくなります。日付・金額・数量を含む発言がこの品質で録音されていた場合、AIの下書きをそのまま信じるのは危険です。
まとめ:録音品質が良くても油断せず、悪ければなおさら確認する
今回の実測から言えるのは、次の2点です。
- 元音声の時点ですでに数字の誤変換があり、AIの文字起こしはどんな録音品質でも完璧ではない。 「高音質だから大丈夫」という思い込みは禁物です
- 録音品質が下がるほど誤りは一貫して増え、電話帯域相当(スピーカー越し・悪条件のBluetoothマイクなど)まで劣化すると、数字が丸ごと消える・発言の趣旨が変わるといった実務上見過ごせない誤りが増える。 こうした状況で録音した場合は、AIの下書きの数字・日付・固有名詞だけでも人が見直す方が安全です
議事録アプリを使う上で一番確実な対策はシンプルです。マイクから離れすぎない、スピーカー越しではなく直接録音する——この基本を守ることで、劣化による誤りは大きく減らせます。ただし、それでも「AIの下書きは完璧ではない」という前提は、録音品質に関わらず持っておくのが安全です。
録音環境以外にAIエンジンそのものの違いが精度にどう影響するかは、文字起こしAIの精度はエンジンで決まる|選び方のコツで解説しています。
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