
- PowerToysのAdvanced PasteがNPU搭載PC向けモデルPhi Silicaに対応
- Phi Silicaは2026年11月までにAion Instructへ置き換え、対応PCの制約も緩む見込み
- 選ぶべきは今のモデル名でなく操作の習慣化
Microsoftは2026年8月10日、無料の便利ツール集「PowerToys」のプレビュー版v0.101.2211.0をGitHub上のリリースノートで公開した(出典:GitHub「PowerToys」リリース情報)。日本語ではPC Watchが8月12日付で伝えている。目玉は、クリップボードの内容を整形して貼り付ける「Advanced Paste」機能の中の「AIを使用して貼り付ける」だ。ここで選べるAIモデルに、新たに「Phi Silica」が加わった。
Phi Silicaは、NPU(AI処理専用の演算装置)を積んだ「Copilot+ PC」向けに作られた小型AIモデルだ。Microsoftの公式ドキュメントによれば、NPU搭載機では小さな「下書き用」モデルが複数の候補を先に提案し、本体のモデルがそれをまとめて検証する「投機的デコーディング」という手法で応答を高速化している(出典:Microsoft Learn「Phi Silica」)。この高速化はNPUがあってこそ効く仕組みで、同じPhi Silicaでも一部GPU機で動かす場合は投機的デコーディングが使えず速度が落ちるとも明記されている。これまでAdvanced Pasteが使えるモデルは、Azure OpenAI・OpenAI・Google・Mistralといったクラウド系や、ローカルで動くFoundry Local・Ollamaなどに限られていた。そこにPhi Silicaが加わったことで、クリップボードの内容をプレーンテキストやマークダウン、JSONに整形するといった操作を、通信もクラウド課金も介さずにPC単体で完結できる選択肢が一つ増えたことになる。
日々のPC作業で言えば、コピーしたメモを議事録用に整形する、URLの羅列を箇条書きに直す、といった小さな加工作業がその場で完結するようになる、という話だ。クラウドAPIへの通信待ちや利用料を気にせず、ちょっとした整形をPCだけで済ませられるのは素直にありがたい。
ただし、この変化を「NPU搭載PCを買えば、あるいはクラウドの代わりにローカルモデルを選べばコストとプライバシーの悩みが片付く」と単純化するのは早い。Advanced Pasteは今もAzure OpenAIやGoogleといったクラウド系モデルを選択肢として残している。理由は単純で、Phi Silicaのような小型モデルは軽くて速い一方、長文の要約や複雑な指示への対応力はクラウド側の大型モデルに分がある。
加えて、Phi Silica自体の足場も長くは続かない。Microsoftは同モデルの公式ドキュメントで「Phi Silicaは後継のAion Instructに置き換わる」と明記しており、2026年10月上旬にテスト用の単体パッケージを配布、10月中にWindows Insider Preview版への展開を開始、11月には一般提供機への展開とともにPhi Silicaを削除する、という3段階の移行計画をすでに公開している(出典:Microsoft Learn「Phi Silica」)。開発者はこれまでPhi Silicaを使うのに、悪用防止のためMicrosoftへ事前申請してLimited Access Feature(限定提供機能)のトークンを発行してもらう仕組みを踏む必要があったが、Aion Instructではこの手続きが不要になるとMicrosoft自身が説明している。足元のモデル名は、数か月のうちに置き換わる前提のものだ。
この置き換えでもうひとつ見落とせないのが、対応ハードウェアの条件そのものが緩む点だ。Phi SilicaはNPUを積んだCopilot+ PC向けに設計されたモデルで、「クラウドの代わりにローカルAIを使う」という選択肢は事実上、対応PCを持つ一部のユーザーに限られていた。ところがMicrosoftは後継のAion Instructについて、GPU性能が低い機種はもちろん、GPUを積んでいない機種でもCPU(汎用の演算装置)による推論で動作するよう対応範囲を広げる、と自ら説明している(出典:Microsoft Edge開発者ブログ)。つまり今回のニュースの本質は「Phi Silicaというモデルが使えるようになった」ことではなく、クリップボード加工のようなその場処理のAIが、NPUという特殊な部品を持たない大多数のWindows PCにも数か月以内に降りてくる、という方向性が公式に示されたことにある。
だとすれば、今この変化から学んで習慣にすべきは「Phi Silicaを使う」ことではなく、「その場で貼り付け前にAIへ軽い整形を頼む」という操作そのものだ。事前申請の壁が外れ、対応ハードウェアの壁まで下がれば、同じような貼り付け時AI加工を組み込むアプリはこの先さらに増えていく。モデルは差し替わっても、クリップボードの中身をその場で整えるという操作の型は残る。今のうちにその型を業務フローに組み込んでおけば、裏側のモデルが何に変わっても、また手元のPCがNPU搭載かどうかにかかわらず、乗り換えのコストは小さくて済む。




