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2026年08月12日 12:30

GartnerがSaaS支出37兆円をリスク視

執筆: Takumi(Memolith開発者)
メモリスメモリスによる要約
  • Gartnerが2340億ドル分の企業向けソフトウェア支出をエージェント型AIのリスクと試算、2030年SaaS支出の約20%相当
  • 崩壊ではなく変容とGartnerは説明、SaaSは消えず別の形で残ると分析
  • 記録ツール選びの基準は画面の使いやすさよりエクスポート形式や連携先の広さへ

会議の記録も、経費精算も、タスク管理も、結局は「画面を開いて自分で操作するソフト」だという前提で仕事は組まれてきた。その前提が、あと4年でだいぶ怪しくなるらしい。

Gartnerは2026年7月1日(米国時間)、企業向けアプリケーションソフトウェアの支出のうち最大2340億ドル (約37兆円、1ドル=160円換算)が2030年までにエージェント型AIの影響でリスクにさらされるとの予測をプレスリリースで発表した。この2340億ドルという金額は、2030年時点で見込まれる企業向けSaaS支出全体の約20%に相当する規模だという。国内では@ITもこの発表を報じている

Gartnerが「エージェンティック・アービトラージ」(agentic arbitrage)と呼ぶこの現象は、AIエージェントが複数のシステムを横断してタスクをまとめて片付けてしまうことで、利用者が個々の画面を操作する必要そのものが薄れていく状態を指す。Gartnerでマネージングバイスプレジデントを務めるジョージ・ブロックルハースト氏は「エージェント型AIは、ソフトウェアがどう稼ぐかという前提そのものを変えてしまう」と述べる。エージェント型のシステムは、UX(使い勝手や画面デザイン)に重きを置いた従来型アプリケーションを介さずに成果をそのまま届けるため、ソフトウェアそのものが利用者の目に触れなくなっていく。多くのソフトウェアベンダーにとって、利用者数の伸びと収益の伸びを結びつけてきた関係が崩れる、というのが同氏の見立てだ。

とはいえ、この変化を「SaaSが消える」と読むのは誤りだ、とブロックルハースト氏は釘を刺す。この変化は、業界で語られてきた「SaaSポカリプス」(SaaS市場が丸ごと崩壊するという従来の見立て)の中身そのものを書き換えることになるという。起きているのは、崩壊と呼ぶには程遠く、姿を変えて生き延びる類の変化だ。SaaSが消えてなくなるわけではなく、別の形に組み変わって現れ直す。既存ベンダーにとっても新規参入者にとっても、この変容は脅威であると同時に機会になる、と同氏は言う。

読者にとっての意味は、日々使っているツールの選び方が静かに変わり始めているということだ。議事録や会議記録のようなツールも例外ではない。これまでは「どの画面が使いやすいか」「どのボタンで何ができるか」で製品を比べることが多かった。しかしエージェント型AIが業務フローに組み込まれていくと、比較の軸は「他のツールとどれだけスムーズにデータをやり取りできるか」「記録した情報が次の作業に自動的に流れ込むか」といった、画面の裏側の連携力に移っていく。

記録ツールを選ぶ基準は、画面の使い勝手からAPI連携の深さへ移すべきだ。会議の記録は単体で完結する成果物ではなく、タスク管理やCRM(顧客管理システム)、ドキュメント作成といった後工程に渡す「素材」になりつつある。ブロックルハースト氏によれば、企業の買い手はいま、新しいツールやダッシュボードを次々に買い足すことへの興味を失いつつある。求めているのは機能の多さではなく成果そのもので、AI機能を積み増すほど、たいていはコストだけが膨らみ、成果はついてこない。時間をかけて組織固有の知見や顧客の背景情報を蓄え、保持し続けられる仕組みでなければ、AIから良い成果は引き出せないという。

記録という行為そのものより、その先で何が自動的に片付くかが評価対象になっていく以上、ツールを比較する項目も具体的に変わってくる。エクスポート形式が人間の目視編集を前提にしたPDFやWordだけなのか、それとも他のシステムがそのまま読み込めるMarkdownや構造化されたデータに対応しているのか。外部の連携サービスやAPI経由で、記録した情報を別のシステムに自動的に渡せるのか。過去のやり取りに登場した固有名詞や案件名を覚えていて、次の記録に反映できるのか。画面デザインの好みで選んでいた基準は、こうした「後工程にどれだけ滑らかに渡せるか」という基準に置き換わっていく。

もう一つ押さえておきたいのは、この変化がベンダー側の防衛戦略にも表れている点だ。Gartnerによれば、一部のベンダーはすでに、業務フローを端から端まで自律的にやり切り、複数システムをまたいだ連携と顧客固有の文脈や知見の蓄積までを担うエージェント型の製品を提供し始めている。ただし現状では、その多くが大掛かりなサービス支援を必要とする段階にとどまるという。ブロックルハースト氏は「このシフトは、従来型のダッシュボードやシート単位の課金モデルにしがみつくベンダーの存続を脅かす一方で、複数の業務領域を横断するエージェント型ワークフローを支える基盤やサービスを育てるベンダーには、大きな収益源をもたらす」と述べている。

利用者側にとっての実利は、記録が「その場限りのメモ」で終わらず、蓄積されるほど後工程が楽になる仕組みを選ぶことにある。同じ会議の記録ツールでも、過去のやり取りや固有名詞を学習して精度が上がっていくものと、毎回ゼロから処理するものとでは、数年単位で見た業務の負荷がまったく違ってくる。次にツールを比較検討するときは、ダッシュボードの見た目やボタンの配置ではなく、記録した情報がどの形式でどこまで自動的に流れ出ていくかを、契約前に一度確かめておく価値がある。

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