
- 米教授、AI生産性のJカーブは底打ちし上昇局面へ、来月ソウルで講演予定
- 底打ちの兆候は4つ、産業間格差・売上増加・新製品・労働再配置
- 統計の停滞は投資効果ゼロの証拠でなく計測ラグ、見極めには同業比較が要る
AIに投資しているのに、生産性の数字はいっこうに上がらない。そう感じている経営者や現場は少なくないだろう。ところが、この停滞そのものが「底を打った証拠」だと言われたらどう聞こえるだろうか。
AI時代の経済分析で知られるスタンフォード大学デジタル経済研究所長のエリック・ブリニョルフソン教授が、毎日経済のインタビューでこう述べた。「AIは生産性Jカーブの最も深い底を通り過ぎた。急な上昇局面の入り口に来ている」。同氏は来月ソウルで開かれる世界知識フォーラムに基調講演者として登壇する予定で、今回の発言はそれに先立つものだ。
Jカーブとは、新技術の導入初期に組織改編や再教育などのコストが先行し、統計上の生産性がむしろ落ち込んで見える現象を指す。ブリニョルフソン氏によれば、これは技術進歩が無いのではなく、無形資産への投資が統計に反映されるまでにタイムラグがあるために起きる過小評価にすぎない。底打ちを知らせる兆候として同氏は、AI集約的な産業とそうでない産業の生産性格差、実際の生産量・売上の増加、価格改定にとどまらない新製品・サービスの登場、そして大規模な労働再配置の4つを挙げ、米国ではすでに1つ目と4つ目がデータで確認され始めていると付け加えている。日本語での報道はまだほとんど無い発言だ。
この話は、社内のAI導入が「思ったほど数字に出ない」と評価されがちな職場にとって、指標の読み方そのものを問い直す材料になる。四半期ごとの生産性指標や稼働時間の短縮率だけを見て「効果が出ていない」と結論づけると、実際には次の局面の入り口に立っている取り組みを、成果が出る前に打ち切ってしまいかねない。
主張したいのは、統計上の停滞を理由にAI投資を絞る判断は、少なくとも今の局面では早計だということだ。根拠は単純で、ブリニョルフソン氏が挙げる4つの兆候はどれも「遅れて現れる効果」を捉えるための指標であり、これは今回の発言に限った特殊な理屈ではなく、無形資産投資が生産性統計に反映されるまでにラグを伴うことは以前から経済学で指摘されてきた構造だからだ。会議の議事録作成のような比較的小さな業務でも、AIツールは使い始めた直後より、話者の識別や専門用語の認識が利用実績に応じて馴染んでいく数週間〜数か月後のほうが体感の精度が上がることが多く、初速の数字だけで導入を評価すると過小評価になりやすい構造は、企業全体のAI導入でも同じ形で起きているとみてよい。
もっとも、この「効果は後から出る」という論理は都合よく使われる危険もはらむ。効果測定を先送りし続け、検証をしないまま投資だけを継続する言い訳としてJカーブ理論を持ち出す企業が出てきてもおかしくない。ブリニョルフソン氏自身が挙げた兆候のうち、米国で確認され始めているのは「産業間の生産性格差」という相対的な指標であることは見過ごせない。つまり、待つべきか動くべきかを判断する材料は、自社の絶対的な数字の停滞ではなく、同業他社と比べてAI活用度がどの位置にあるかという相対比較のほうにある。統計が伸びないことを理由に投資を止めるのではなく、同業種内での立ち位置を定点観測することが、待つことと測らないことを混同しない唯一の方法だろう。
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